江戸百の作品構成の要諦
江戸百の全作品の解説を終えて、1つの考えが浮かび上がりました。安政江戸地震が発生した直後の世相の中で、広重の「名所」とはいったい何を指しているのかという原点にあった問題への回答です。
美しい景色が全て名所になるわけではありません。重要なのは、広重の「筆意」なのですが、本講座の視点では、広重の筆意=画の見せ方という捉え方をしています。切り取り、選択、強調など近景拡大の技法も含めた技術的な点だけではなく、庶民心情の底にある信仰・事蹟・評判・興味などの感情の拾い方もさらに重要です。たとえば、神仏の御利益、過去の歴史の舞台であること、歌舞伎・狂言・能などの見立て、幕府・将軍の動静などに対する庶民の関心の上に作画されていることを読み解く必要があります。
とくに庶民信仰という観点から、少しばかり次元を変えた分析を展開してみます。広重の描く名所は古くからの結界や供養の地であることが多く、江戸百を包括的に見れば、結界の大きなネットワーク、すなわちそれを龍脈と呼ぶならば、江戸全体の龍脈を無意識の内に採り上げていると考えられます。そして、名所に指定され、視覚化された各地に庶民が足を運べば、気の流れが生まれ、結果として江戸が浄化され元気になるという訳です。目録を含めた120枚の作品は、結界のネットワーク(龍脈)を示すもので、その龍脈が修復されれば、江戸は強く災害から守られて、再び安政地震の様な災害に見舞われることがなくなるのです。江戸の結界を修復するというのが、江戸百の裏目的ではないかというインスピレーションです。
最後に、浮世絵の本質は浄化であるという考えが本講座解説の根底にあることを付言しておきます。
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