竹箆太郎(5)
ジェイムス夫人英訳のちりめん本『竹箆太郎』 には、このシリーズにしては珍しく、序文が付いています。そこでは、竹箆太郎と同様、犬を起源とする話として、‘Mitsumine’あるいは‘Mitakesan’の‘Okuchishinjin’の紹介がなされています。これは、「御岳」(みたけ)の「大口真神」(おおくちまがみ)のことを指していると思われ、物語の最初のページにも、この「大口真神」を描いた幟が引用されています。ジェイムス夫人の念頭には、このニホンオオカミのイメージがあったことが推測され、幟の中にも、「竹箆太郎大明神」と書かれています。
この、もう一つの(怪)犬伝説は、武蔵御嶽(みたけ)神社に伝わる古譚で、日本武尊が東征の際、深山の邪神の放った深い妖霧に道を見失い、窮地に陥ったのを白狼に導かれたことに由来します。白狼は、その後、「大口真神」としてその地に留まり、魔物の退治を仰せつかったといいます。以来、魔除け、火難除けの神として「お犬様」の霊験の信仰が始まったそうです。ちなみに、ジェイムス夫人は、‘the large mouthed god’と英訳しています。
この信仰は、ニホンオオカミが描かれた護符を受けに行く「御嶽講」(みたけこう)として、今日でも残っているそうで、この経緯は、長野県川上村出身の由井英監督のドキュメンタリー映画、『オオカミの護符』にて撮影されているとの報道に接しました。
ところで、御嶽神社は現在の青梅市に当たりますので、ジェイムス夫人の話の収集地は東京近郊と推測されます。実は、歌舞伎の怪猫奇譚『竹箆太郎』では、退治されるのは猫です。江戸などの歌舞伎の観客や読み物の読者にとっては、猿よりも身近な猫の方が現実感があるように思われますし、そのような資料に基づいて彼女が英訳したとなれば、怪犬と怪猫の戦いというストーリーにならざるをえません。彼女の意図は、それほど強いものではないかもしれませんね。
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)












最近のコメント