NHKの大河ドラマ『天地人』で、直江兼続の活躍がいよいよ見られるようになってきていますが、すでに、上杉謙信、武田信玄さらには織田信長も世を去り、豊臣秀吉の政権末期へと時代は移っています。このことからも判るとおり、川中島合戦の武者絵において兼続が描かれているのは、歴史的事実を基にしたものではないのです。兼続は、石田三成と同年ですので、三成が川中島合戦で活躍することが時代に合わないのと同様、事はすぐに理解できると思います。
したがって、兼続が浮世絵に採り上げられるのは、別の事由からですが、それは、『天地人』の進行のなかで明らかにされるでしょうから、詳細はドラマに譲ります。ここでは、直江山城守(兼続)を描く、役者絵を紹介しておきます。
◆「擬五行盡之内 孝の恵に 身も肥る 土」 「慈悲蔵」
絵師:歌川(三代)豊国、版元:恵比寿屋庄七、年代:嘉永五(1852)年八月
画題の枠に菊座橘が描かれているので、三代目嵐璃寛であることが推測されます。明和三年(1766)正月初演浄瑠璃『本朝廿四孝』(三段目切)で、中国の「廿四孝」孟宗の翻案として、母の命で慈悲蔵(後の直江山城守)が雪の中、筍を掘っていると、兄横蔵(後の山本勘助)が現れるという話です。
慈悲蔵は筍掘りの最中、鳩が群れ飛ぶことから、そこに、亡父が六韜三略巻を埋めたのではないかとさらに掘り進めていましたが、そこに横蔵が現れて取り合いになります。
慈悲蔵は、兄が主君長尾景勝に瓜二つであるため、その身替わりとさせようと考えています。しかし、兄は、密かに武田信玄に仕えていたので、自ら片目をつぶして、亡父の名である山本勘助の名を継ぎ、慈悲蔵は、直江山城守の名を継ぐこととなります。
五行(陰陽五行説)は、世界が、木、火、土、金、水、(木、金、火、水、土)の五つの要素で構成されているという考えで、本作品はその内の土をテーマにしています。すなわち、『本朝廿四孝』の筍掘りの場面は、それはまさに「土」を掘るということなので、土に当てられたものと考えられます。
画題に「孝の恵に 身も肥る」とあるのは、母のために筍を掘ることの孝ということでありますが、演ずる役者・三代目嵐璃寛が大変肥満であったことから、「肥る」はそこに掛けられているようです。また、実際には三代目嵐璃寛は慈悲蔵を演じていないので、慈悲蔵を璃寛に見立てた作品というわけです。
竹林の中を飛ぶ鳥は、一見、雀のように見えますが、『本朝廿四孝』を考えれば、鳩ということになります。また、すっかり黒くなっていますが、雪を胡分(鉛白)散らしで表現しています。当該作品に関して、全く同様の場所に胡分(鉛白)散らしが施された他の作品を見ますから、版木に一度散らした後、何枚かを摺ったことが想像されます。つまり、浮世絵作品に直接、胡分(鉛白)を筆等で散らしてはいないということでしょう。
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