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89 王子不動の瀧

安政4年9月(1857)改印
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 石神井(しやくじい)川は滝野川とも呼ばれ、王子権現の麓では音無川と名を変えますが、不動の滝は、滝野川辺りに流れ落ち、南岸の正受院(滝不動)の川下にあります(DVD『江戸明治東京重ね地図・王子飛鳥山』参照)。川で見つかった不動尊を祀ったことが名前の由来とされています。滝壺の切石から跳ねる水で霧が立ち込めたようだったと言い、病気治癒などの信仰の対象となっていました。元絵と思われる、『絵本江戸土産』四編の図版「不動の滝」の書き入れには、「この所 後は石神井川に臨む 弘治年中 和州の沙門学仙房 この傍に庵を結び不動の法を修す 後に霊像を感得すといへり」とあります。

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 87「王子稲荷の社」、88「王子装束ゑの木大晦日の狐火」が春冬であるのに対して、本作品は夏の滝垢離・水垢離あるいは納涼の様子を描き、季節的な描き分けによって、王子一帯が、季節を問わず行楽の名所であることを表現する意図と思われます。竪絵の特徴を存分に利用して滝の水を一条に表現し、かつ左右対象にぼかしを入れた摺技が目を引きます。江戸百作品は、概して縦に引き延ばさる傾向にあるので、実際には、これ程高さのある滝ではないはずです(「広重あるある」)。

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 江戸百作品には、休憩のための茶店も見えますが、王子周辺には神社仏閣はもちろん、酒屋・料理屋・茶店など多くの施設があって、版元的には、安政4年9月改印の時期、すなわち晩秋から年末の「ゑの木大晦日の狐火」、「王子稲荷」の初午詣り、不動尊の滝垢離・水垢離といった一連の風俗を採り上げて、季節を問わない行楽地・王子界隈に目を向けさせようという趣向でしょう。

 なお、不動の滝が流れ落ちる滝野川はその名のとおり多くの滝が流れ込む場所で、このような場所は滝の女神の霊地とされるのが普通です。にもかかわらず、火の眷属である不動明王の名を冠しているのには理由があります。たとえば、「瀬織津姫(せおりつひめ)」などの滝の女神は日神との和合神とされるので、男神たる日神に目を向け、その本地である大日如来の眷属不動明王に習合して祀られるのです。したがって、各地の滝が不動の滝と呼ばれることや滝近くに不動明王が祀られることは決して少なくありません。王子の不動の滝にも川筋で不動明王の像が見つかった伝承があるので、古において滝の女神が和合神として祀られてきた歴史があったことが推察されます。

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