3-39.海濱の不二
江ノ島か、伊豆の海岸でしょうか、荒波によって浸食され穴が開いた奇岩の向こう側に富士が見えるという構図です。右頁の木の節穴に対して、左頁に巌窟・巌穴を持ってきたことは明らかです。江ノ島や伊豆が巌窟・巌穴によって富士に通じているという伝説は富士講信者にはよく知られていることなので、それを絵にしただけということならば、北斎にしては新規性が感じられません。
では、図象に注目して読み解けば、遠景の富士も波で穴(人穴?)が開いているように見えます。つまり、富士を海浜の巌穴の1つと認識し、遠景と近景の巌穴のシンクロを楽しむ作品に仕立て上げられていることに気付きます。ついに北斎の想像力は、富士の山腹に穴まで開けてしまったということです。
他方、右頁のピンホール現象を前提とすると、この巌穴によって、近景枠外に逆さ富士が見えているという謎かけがあるのかもしれません。もしくは、遠景の富士こそ写された像と考えるべきなのでしょうか。神仏世界が富士という形でこの穴を通して見えているとするならば、とてもありがたい絵だということになります。前作品「さい穴の不二」の下資料とも考えられる、前掲『羇旅漫録』には、京都東寺の塔、信州上諏訪の薬師堂などが写る節穴の紹介があり、信仰的関心が基礎に置かれています。その右頁の流れを受けて考えると、「海濱の不二」は、御本尊富士を拝める場所がこの自然の海浜にあることを示す作品なのだと分かります。
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