3-11.羅に隔るの不二
「羅」は元来鳥を捕まえる網を指しますが、ここでは蜘蛛の網(巣)の意味で使われています。後掲「網裏の不二」と同様、網の背後に富士が見えるという発想です。しかしながら、同心円を描く実際の蜘蛛の網とは異なっており(有泉・前掲『楽しい北斎』p199)、かなりデザイン化されています。
蜘蛛の網に紅葉らしき葉が1枚引っ掛かっていますが、この意味を考えると、おそらく、富士が蜘蛛の巣に引っ掛かっているかのような光景を意識させるために、面白く対比表現を採ったものと思われます。つまり、落葉を富士の依代として、富士との近しい関係が手際よく描かれています。さらに深読みすれば、蜘蛛の網の中心(こしき)から光が溢れているようにも見え、また網に掛かる落葉が紅葉ならば太陽の赤のイメージのようでもあり、いずれにしても、富士を日神とする富士講信仰を強く感じさせる作品です。見開き右頁の「水道橋の不二」との関係では、神田川の水紋のようにも、その水面に映った富士のようにも見えます。左右1対の作品ということに拘るならば、神田川の岸壁近くの木々に作られた蜘蛛の巣越しに富士を眺望し、その情景を切り取った作品なのかもしれません。
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