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13.尾州不二見原

Fugaku1_0141

 三十六景に「尾州不二見原」という同一題名の作品があります。桶職人が作る大桶の中に遠景の富士を見るという、構図重視の作品です。北斎は、文化9年(1812)、文化14年(1817)に名古屋に滞在しているので(飯島・前掲『葛飾北斎伝』p110以下、p128以下参照)、その際に知り得た知識に基づいて構想したものと想像されます。なお、実際に富士見原で見えるのは、富士に似た聖山であって、富士そのものではありません。

 三十六景「尾州不二見原」は、当地で富士が見えるという知見から生まれた構想図なので、大桶が10羽の群鶴に変わって百景作品となってもそれほど不思議ではありません。同じからくりなどの技法を重ねることを嫌う北斎が、本作品ではどんな工夫をしているかを検証してみましょう。

 まず最初に気付くのは、群鶴上部中央の1羽の鶴の首を中心に富士に相似する三角形が作られており、富士見原に群鶴の富士塚が出現しているということです。遠景の富士の御利益が、近景の富士のあるこの地にも到達することを感じることができ、大変おめでたい構図です。また、首を伸ばす7羽の鶴の頭が北斗七星を形作り、北斎の妙見信仰が重ねられています。その場合、富士を地上の北辰星と看做すことになります。初編前半の早い段階で「尾州不二見原」が採り上げられている動機の内には、おそらく、本シリーズだけでなく、『北斎漫画』も含めて、版元「尾州名古屋 永樂屋東四郎」への忖度が存在するものと考えて差し支えないでしょう。北斎にとって、尾州は作品の版行が進展する縁起の良い土地柄で、それ故、富士と群鶴を重ねた吉祥図を構想し、シリーズの売り上げ向上を合わせて祈念したものと思われます。

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コメント

 ≪…富士に似た聖山…≫のご当地富士で、[不二](富士)の深堀に重ねたい・・・
△ と 〇 を結ぶ [光道]に、数の実数直線を想う・・・

 数学の基となる自然数(数の言葉ヒフミヨ(1234))を大和言葉の【 ひ・ふ・み・よ・い・む・な・や・こ・と 】の平面・2次元からの送りモノとして眺めると、[数のヴィジョン]に・・・

自然数のキュレーション的な催しがあるといいなぁ~

投稿: エジプト分数 | 2024年7月 6日 (土) 13時05分

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