2-3.竹林の不二
竹林越しに富士を眺望する構図です。そのうえで、『富嶽百景』をからくり絵本と特徴付けるならば、近景にも「竹林の不二」が隠されているのではないかと考えることになります。この観点では、右頁の太い斜めの竹が富士の左稜線を形作り、遠景の富士と相似していることが分かります。まさに、竹林に富士が出現したことになります。竹の太さにばらつきがあるのは不自然であるとの指摘がありますが(有泉・前掲『楽しい北斎』p171参照)、作品読み解きのヒントとして敢えて極端な遠近法が導入されていると見るべきでしょう。
本作品には、珍しく人物が登場していません。この点には、隠された意図があるように思われます。すなわち、『竹取物語』の「かぐや姫」伝説を想起させようとの意図です。『東海道名所圖會』(前掲『新訂東海道名所図会下』p25以下)には、『竹取物語』「登天段」に触れて、かぐや姫が入内を断り、「不死の薬を捧げて上天(しょうてん)したまいけり。これぞふじの山という縁(もと)といえり」と、あるいは帝が不死の薬を峰にて燃やすように命じ、「そのよしうけたまわりて、兵者(つわもの)あまた具して山へのぼりけるよりなん、その山をふじの山とは名づけゝる」とあります。後者は、富士を多くの士=兵者(兵士)と読み解いています。いずれにしろ、竹取の翁の娘・かぐや姫が富士命名ゆかりの人物(天女)であることを知れば、「竹林の不二」を理解するには、当然、『竹取物語』の世界が前提になっていると考えることになります。
近景の竹林の富士にかぐや姫を見れば、遠景の竹林越しの富士には、そのかぐや姫が昇天した天界に一番近い山としての神聖性が意識されます。反対に、富士に天界を感じるならば、近景の竹林の富士にも天界への道を見つけることができ、かぐや姫がなぜ竹林で誕生し、後に天界に帰ったのかの秘密も同時に知ることができます。「かぐや姫」伝説が富士と結びつく理由は、富士の祭神が「木花開耶姫命」という女神であることと深く係わっていると思われます。
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コメント
≪…「竹林の不二」を理解するには、当然、『竹取物語』…≫で、数の言葉ヒフミヨの【ひ・ふ・み・よ・い・む・な・や・こ・と】の【普遍言語】の寓意を・・・
富士山体(π体)は、陽数(奇数)の眺望になる。
自然数のキュレーション的な催しがあるといいなぁ~
投稿: 岡潔数学体験館見守りタイ(ヒフミヨ巡礼道) | 2024年7月12日 (金) 11時27分
数の言葉ヒフミヨ(1234)を大和言葉の【ひ・ふ・み・よ・い・む・な・や・こ・と】の平面(2次元)からの送りモノとして眺めると、自然数の量化の姿(構造)が観える。
『ヒフミヨ ヒンメリ』のコアの軸の象徴の[√8]が、≪…不二…≫として[円]の一歩[1]の歩みが創る[ながしかく](1×2)で対角線(√5)は、ヴェシカパイシス(神聖幾何)の現れだ。
[円]の4等分が創るカオスな弦(√2)をコスモスな[2]にすると、[ながしかく』の『半分こ』の[直角三角形](√2 √8 √10)に生る。
これこそが、√5から√10 への変身で、根(√)が在っても無かっても成り立つコトに想う・・・
(√2)²+(√8)²=(√10)²
2 + 8 = 10
ヒフミヨは冥途の土産勾股弦
因みに、√5 は、
2.2360679(富士山麓オウム鳴く)
投稿: レンマ学(メタ数学) | 2025年1月17日 (金) 12時05分