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61 近江国 「柏原」

「六拾壹 木曽海道六拾九次之内 柏原」  廣重画 錦樹堂


Kisokaido62 本作品から近江国に入ります。『木曽路名所図会』(巻之1)によれば、「此駅は伊吹山の麓にして名産には伊吹艾(もぐさ)の店多し」とあります。伊吹山は、美濃・近江の国境に聳える海抜1377mの山で、その頂から濃尾平野へ吹き下ろす伊吹颪は烈風として知られています。南麓に北国街道が通じていて、『岐蘓路安見絵図』(柏原)も、「柏原の北六里に小谷山あり。道より見える。北国海道なり」と記します。平安時代、諸国から朝廷に献上する薬種は伊吹産が最も多く、その伝統の中で産まれたのが伊吹艾です。大田南畝『壬戌紀行』(前掲書、p277)も、「伊吹艾をひさぐもの多し」と記述しています。江戸時代、松浦七兵衛(6代目)の亀屋佐京が有名でしたが、その宣伝方法は、吉原の遊女に、「江州柏原伊吹山の麓亀屋佐京のきりもぐさ」という文句を歌ってもらうというものです。結果は功を奏し、亀屋は中山道の名所として全国に知られ、大名、文人墨客など多くが立ち寄ったそうです。

 当作品は、まさに、宿中街道の左手にあった、この亀屋佐京の店を描くものです。店の中央壁(障子)に「かめや」、右手の暖簾に「亀屋」「かめや」、左手の壁に「亀屋」とあります。右側の衝立に「○藥艾」とあって、こちら側が伊吹艾の売り場です。その右端には商売繁盛の縁起物福助人形が鎮座し、左側には伊吹山の模型が置かれています。なお、店は伊吹山を正面北方向に見るはずです。左手、「酒さかな金時のちや」の提灯がある方が茶亭で、金太郎の置物が飾られ、その奥の庭には旅人の目を休める庭園があることが判ります。店の前には人足が荷物を杖で支えて休んでいます。

 制作過程は、広重の後掲スケッチ帖を元絵としてそのまま作品に仕立てており、実景描写を旨としています。当作品の構想意図は単純です。広重も亀屋の宣伝に一役買っているということで、入銀作品と見て間違いないでしょう。店内の装飾や奥庭の整備、さらにはその宣伝方法など、亀屋の商売上手な事がよく見て取れます。現在も、「伊吹艾本舗亀屋(伊吹堂)」として営業がなされています。


*注1:『秘蔵浮世絵大観1 大英博物館Ⅰ』画像番号9(p210)

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