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36 信濃国 「藪原」

「三十六 木曾街道 藪原(ヤブハラ) 鳥居峠硯(トリ井タウゲスゞリ)ノ清水(シミヅ)」  英泉画 保永堂


Kisokaido36 『岐蘓路安見絵図』には、藪原につき、「此ところ木曽谷へ入はじめ也。是より下馬ごめ迄十七り有。誠に深山幽谷也。竹一切なし。」「まげ物ぬり木地道具つくる」と注意書きが付されています。旅人にとって重要な情報は、奈良井から藪原に向かう途中に鳥居峠があることです。『木曽路名所図会』(巻之3)は、『信長記』を引用し、ここで武田勝頼が織田信長方の木曽義昌に敗退した事蹟を語り、鳥居峠につき、「駅路坂嶮(けは)し。馬に乗がたき危き所なり。むかし木曽の御嶽の鳥居こゝにありしより名とす。今はなし」と記しています。また、「義仲硯水(よしなかすゞりのみづ)」として、「鳥居峠にあり。纔(わづか)の清泉なり。此峠西下(お)り口藪原の入口より東の方に飛騨の高山へ行道あり。是より十九里也。飛騨より江戸へ行には此道より出る。是より飛騨へ行道ははなはだ嶮岨(けんそ)にして馬に乗る事ならず。多く牛に乗て往来すといふ」とあり、さらに、芭蕉の句碑「雲雀(ひばり)よりうへにやすらふ峠かな」が紹介されています。

 前掲名所図会の後掲図版「鳥居峠 御嶽遠景 義仲硯水」を見ると、英泉作品は基本的には同図版を元にした構想図と言えましょう。違いは、義仲硯水と句碑の松を峠まで移動した(逆に、人物を義仲硯水と芭蕉の句碑の松の所まで引き上げた)こと、藪原の北部から薪(たきぎ)を運ぶ小木曽女(おぎそめ)を加えて、英泉らしい華やかな女性を登場させたことです。塩尻峠にもあった技法ですが、鳥居峠が御嶽山よりも高く描かれています。なお、絵師の視点は藪原側から鳥居峠を上って、雪に覆われた御嶽山を望むものです。旅人の笠に極印が押されている珍しい作品です。鳥居峠が分水嶺となって、これより木曽川などの水は太平洋側に流れていくことになります。

 ちなみに、大田南畝『壬戌紀行』(前掲書、p303)は鳥居峠でどういう訳か御嶽山を見ず、「…山の頂なり。こゝにしてかへりみ見(ママ)れば、左の方に遠く駒がたけそびへ、右に飛騨の乗鞍がたけ長く横たはれり。ともに雪をいたゞく」と記します。


*注1:『木曽路名所図会』巻之3(鳥居峠 御嶽遠景 義仲硯水)

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