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01 武蔵国 「日本橋」

「第壹 木曾街道續ノ壹 日本橋 雪之曙」 英泉画 竹内・保永堂版・左枠外に竹


 これより、第1グループ(渓斎英泉と保永堂の組み合わせ)1~10枚が始まります。


Kisokaido01 広重(保永堂版東海道)が日本橋を南方向から描いたのに対して、英泉は北(西)方向から描いています。『東海道名所図会』、『木曽路名所図会』、『江戸名所図会』のいずれも日本橋を北(東)方向から描き、日本橋川の北側にあった河岸に視線を向ける構図を意識していて、その意味では英泉の構図の方が自然なのかもしれません。先行する絵図とは反対に、英泉が上流(西)から下流(東)の江戸橋方向を遠望するのは、題名「雪之曙」を表現するためで、『江戸名所図会』(ちくま学芸文庫1、p65、p70)が「この橋を日本橋といふは、旭日(あさひ)東海を出づるを、親しく見るゆゑにしか号(なづ)くるといへり」とある命名由来に素直に従ったものと考えられます。なお、雪晴れの景色は、新春への希望とシリーズの出発とを掛けたもので、また、朝日の紅色は、雪の白色と相まって紅白のおめでたい雰囲気を醸し出しています。

 日本橋上の人物群を見てみましょう。日本橋川の北側に庶民の台所・魚河岸があるので、橋の北詰には、必然的に、ヒラメや貝類を売りながら帳簿を眺める商人、その前には寒ブリを天秤棒で運ぶ男、天秤を担ぐ棒手振(ぼてふり)、寒ブリを籠に担ぐ男など河岸風景が描かれることになります。絵の中央辺りの傘には、「霊岸島 竹内 未五千…」と書かれていて、版元保永堂(竹内孫八)が天保6(1835)年に本作品を版行したことを表すと解釈されています。その傘の背後では2人の芸者が立ち話をしていて、いかにも美人画の英泉らしいと言えます。さらに右手には木綿を積んだ大八車を押す人足がいますが、日本橋界隈にある呉服屋・染物屋を連想させるものか、どの名所図会にも描かれる日本橋を特徴づける風景です。橋の手前には従者を連れ、頭巾を被った町名主が橋を渡って行き、それに対向し、笠を被り、引回合羽を着る人物は、中山道を目指す旅人と思われます。広重(保永堂版東海道)が大名行列でシリーズを始めたのと比較すると、私的な紀行の旅が開始される雰囲気です。英泉の担当部分は、大名(武士)や弥次喜多ではなくて、絵師自身が旅の主人公なのかもしれません。

 文筆業にも携わった英泉ということを踏まえると、以後、英泉の担当部分に関しては、『木曽路名所図会』などからいかなる紀行文が構想され、それにどんな絵が付けられたかという読み解き方も一考かと思われます。


*注1:渓斎英泉はどんな絵師
 寛政3(1791)年~嘉永元(1848)年。武士・池田家に生まれ(本名義信)、6歳で母、20歳で父と継母を亡くし、幼い3人の妹を養うために水野壱岐守の江戸屋敷に仕官するも、讒言によって流浪の身となります。その後、狂言作者に出入りし狂言作家の道に進み、さらに菊川英山の父英二の家に寄寓し、そこから浮世絵師・渓斎英泉としてデビューします。これらにつき、自伝、池田義信『无名翁随筆(むみょうおうずいひつ)』(天保4・1833年)参照。
 『浮世絵類考』(岩波文庫、p187)には、「北斎翁の画風を慕ひ画則骨法を受て後一家をなす」とあって、北斎への傾倒が読み取れます。また、「団扇画も多し、近世藍摺の錦画は此人の工風より流行す」ともあって、北斎の藍摺『冨嶽三十六景』誕生の機縁を窺わせる記述もあります。「粋とあだ」に集約される、新しい美人(遊女)像を描き出した浮世絵師として高名です。天保の改革以後は、「一筆庵可侯」という筆名で戯作者としての仕事が主になっています。版元蔦屋伴五郎の『信濃国善光寺略絵図』に絵師として渓斎英泉の名があるのも、美人画だけではなく、本作品に代表される名所絵をも描いているからです。同『浮世絵類考』には、「唐画を好み書を読の一癖あり、…戯作を楽みとして近世草双紙、中本、春画、好色本を多く出せり」とあります。小説類への挿絵制作や後に戯作者になったことも含めて文章を読み書ける人である点で、本シリーズ英泉部分の理解に、絵に合わせてどんな文章が想定されているかを読み解く必要がありましょう。


*注2:講座では、『天保国絵図で辿る広重・英泉の木曾街道六拾九次旅景色』(人文社・2001)を使用して解説しています。以下、『旅景色』として引用します。本ブログに画像がないとイメージが掴めないと思われるので、国立国会図書館所蔵の作品を参考画像として掲載します。版の違いによって、若干、説明が異なることご了解ください。

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