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広重の冨士三十六景に寄せて

おわりに


 『広重の冨士三十六景』は、2014年、長野県カルチャーセンターで行なった浮世絵講座資料を元にブログとしてアップしたものです。「浮世絵に聞く!」シリーズとしては5番目に当たります。一番初めのブログ『冨嶽三十六景・北斎の暗号』においては、北斎作品が富士信仰者あるいは富士講信者の目にどのように写ったかを思案しながら、作品構図に潜む仕掛けやトリックを読み解こうと努力しました。他方、『広重の冨士三十六景』では、江戸庶民にとって名所の日常景とはどんなものなのかに注意を尽くして鑑賞するように努めました。地元故に関心が持たれているので付言しますが、両作品の比較から、北斎『冨嶽三十六景』「信州諏訪湖」は、広重作品と同じく、高島城のある諏訪湖東岸ないしは北東岸の衣ヶ崎周辺からの眺望を想定しているという考えに至っています。詳しくは、本ブログ「28 信州諏訪之湖」を参照下さい。いずれにしろ、実景とは異なった構想図として作品を見ています。その他の点でも、両ブログを読み比べていただければ幸いです。


 なお、私の浮世絵に関する諸活動の経過について触れておきます。すなわち、長野冬季五輪の前年、1997年10月、長野浮世絵研究会を発足し、同時に「市民の浮世絵美術館」活動に着手しました。その精神は、一般市民生活で手に入る程度の資料で十分に浮世絵は愉しむことができるというものです。インターネットの普及によって、閲覧できる図版や手に入る研究資料・書籍など飛躍的に増えたことが大きく影響して、一般市民が浮世絵を愉しめる環境はかなり整ったように思われます。こうした活動の一貫で浮世絵展を企画・開催する他に、2006年10月から長野県カルチャーセンターで「浮世絵を読む」という講座を開設しました。その後、浮世絵について判らないことがあれば、同種の他の浮世絵を参照すれば大概理解できるという趣旨で、つまり、「浮世絵のことは浮世絵に聞け!」という意味で、「浮世絵に聞く!」と銘打った講座に改めました。この頃より、ある程度、オリジナルな解説ができるようになったというのが正直な感想です。浮世絵講座自体は、ありがたいことに、本年(2015年10月)で開講10年目に入ります。


 さて、冒頭に述べた2014年は、ちょうど私の還暦の年に当たりました。したがって、ブログ『広重の冨士三十六景』は、結果的に還暦を記念するものになったことを報告いたします。個人的所感ですが、大学卒業後、大学院(法学研究科)に進み、さらに助手として刑法学の研究を積み重ねてきた月日を思うと、現在、浮世絵の研究者を目指している自分が不思議に感じられます。また、浮世絵講座において、同じシリーズ物の作品を統一的観点から説明しようとする自身の態度には、法解釈における「体系的思考」が確実に影響を与えていると自覚されます。過去の遺産でしょうか。


 ともあれ、英泉・広重『木曾街道六拾九次』や広重『名所江戸百景』など浮世絵講座ではすでに扱いながらも、まだブログにアップしていない浮世絵シリーズがいくつかあります。いずれも長い揃い物なので一度には無理ですが、機会を改めて、絵師の世界観や作品体系を読み下しながら、少しずつ掲載していきたい考えです。長野冬季五輪を機縁に始まった活動なので、少なくとも、東京夏季五輪まではなんとか継続しつつ、「浮世絵に聞く!」シリーズを総括したいと決意しています。今後とも、よろしくお願い申し上げます。

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コメント

とても久しぶりに訪問させて頂きました。
覚えてはいないかもしれませんが、つい嬉しくてコメントさせていただきます。

この前、長野でイベントをやりたいと圭くんから聞きました。
わたしもまた行きたいと思い、是非実現するのを願っております。
他にも聞いている話とブログの内容がリンクして、とてもあったかい気持ちになりました☆

これから寒くなりますので体調にはお気をつけくださいませ。

投稿: ももか | 2015年9月27日 (日) 23時49分

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