« 30 甲斐御坂越 | トップページ | 32 甲斐犬目峠 »

31 甲斐大月の原

Fuji_31 甲斐国では、甲州街道は、信濃国から、甲府、大月、猿橋、犬目峠、上野原を経て相模国に進みます。広重が浮世絵作品にした地域が何ヵ所か含まれ、本作品は、甲州街道と上吉田村(富士吉田市)に至る谷村道(富士道)との分岐点であった大月宿から画題を選んでいます。富士講の信者が江戸から甲州街道で富士を目指す場合、小仏峠を越えた後富士が見えるのは、桂川の河岸段丘上の谷間を歩くので、後掲「32 甲斐犬目峠」と本作品「31 甲斐大月の原」との2ヵ所に限られます。そして、富士講信者は大月から富士道を通って富士吉田に出て、北口登山道から富士に登るということになります。

 交通の要衝というイメージですが、『不二三十六景』「甲斐大月原」などを見ると、茫漠とした野原が広がっていたようです。同作品は、1人の法体姿の旅人が秋風吹く一面のすすき野(大月原)から御坂山地の上に顔を出す富士を眺め、寂寥感が漂う雰囲気です。おそらく、桂川対岸の岩殿山麓辺りからの遠景と想像されます。甲州を旅し、実際の風景を体験した広重の思い出を重ねたものでもありましょう。広重の旅日記・旅絵日記については、『甲州日記』(天保12・1841年4月)、『甲州日記写生帳』(同年11月)などを参照。


 これに対して、本作品は、絵師の視点を相当下に置いて、大月原に分け入って、すすきだけではなく、野菊、桔梗、女郎花(おみなえし)などの綺麗な色の花々を加え、華やかささえ感じさせる作風となっています。年月を積み重ね、個人的体験を超えた絵師の熟成した技を見せる作品となったのかもしれません。明るい色使いが主体となっている、本シリーズを代表する作品の1つです。

|

« 30 甲斐御坂越 | トップページ | 32 甲斐犬目峠 »

広重の冨士三十六景」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/197953/62305273

この記事へのトラックバック一覧です: 31 甲斐大月の原:

« 30 甲斐御坂越 | トップページ | 32 甲斐犬目峠 »