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21 はこねの湖すい

Fuji_21 まず比較すべきは、広重自身の保永堂版『東海道五十三次』「箱根 湖水圖」です。何よりも、作品中央に描かれる波のように切り立った崖(山)が目を引き、箱根越えの厳しさを象徴する好評価の構図です。興味深いのは、広重が、横絵の保永堂版では縦に高い崖(山)を描き、反対に、竪絵の『冨士三十六景』では箱根権現社の敷地周りの崖(岩場)を横に半島状に描き込んでいる点です。本作品では、それによって、富士山下に緑・黄・青の色の帯を、半島部分にも同じ色の帯をもう一度繰り返すという面白い表現を実現していて、「風景表現のみで勝負する積極的な試み」という評価もあります(謎解き『冨士三十六景』p58)。


 次に、本作品を『不二三十六景』「箱根山中湖水」と比較してみると、竪絵と横絵および絵師の視点の高低にそれぞれ違いはありますが、基本的構図はほぼ同じと考えられます。つまり、同「箱根山中湖水」を制作した時点で、箱根からの富士眺望図はすでに完成していたと考えることができます。この点については、広重『武相名所旅絵日記』(嘉永4・1851年)の元箱根「賽の河原」で描いた写生が下絵になっているという研究報告があります(山梨県立博物館『北斎と広重』参照)。


Hokusai28 さらに、本作品を画題を同じくする北斎『冨嶽三十六景』「相州箱根湖水」と比較してみると、広重作品の中央部に半島のように大きく描かれる地形が実際にはかなり小さいことが判ります。敢えて特定すれば、北斎作品の杉木立のある箱根神社辺りからの富士眺望であると推測されます。なお、同「相州箱根湖水」は、富士(山岳)信仰の中心地の一つ、箱根神社の神聖な姿を静謐に描いています。しかしながら、富士と芦ノ湖の藍の色調を一体と見れば、大きな富士が眼前に見えてきて、その大きな富士の山裾に箱根神社があることが確認できます。これと同じ隠し技は、「武州玉川」にも見ることができます。また、信仰の地を静謐なタッチで描く前例は、「相州江の嶌」にも表れています。


 本作品の描写は、過去の作品と対照され工夫されていることがよく判ります。その上で、『東海道名所図会』(巻の五)の図版「箱根権現社」と比較してみると、当図版には、広重がスケッチをとった賽の河原と箱根権現社がともに描かれていることに気付かされます。つまり、広重は、結局、一番古くに制作された当図版を眺めながら本作品の構図を定め、次に先のスケッチをとって制作を補完したのではと想像されるのです…。広重にしてみれば、自分が目にした写生ではなく、先行する名所図会の各図版風景こそが伝統的日常景という認識なのではないでしょうか。

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