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12 武蔵小金井

Fuji_12 江戸百には、神田上水の水源地「井の頭の池弁天の社」が描かれています。それと対比すれば、玉川上水上流部の名所小金井(桜)が描かれていないのは不思議なことです。そこで、それを埋め合わせようとしたのか、江戸百には「玉川堤の花」という新機軸の作品が制作されています。ただし、残念なことに、その桜は老中筆頭阿部正弘の命によって伐採されることになり、作品自体がいわくつきのものとなってしまいましたが…。視点を変えて、『冨士三十六景』が江戸百を補完していると考えれば、小金井(桜)が江戸百からは外された事情も合理的に説明できるでしょう。


 本作品は、武蔵小金井の玉川上水堤に植えられた桜木の洞(うろ)越しに富士を覗く構図です。『江戸名所図会』(4-p73)によれば、「この地の桜花は享保年間[1716-36](あるいはいふ、元文二年丁巳[1737])、郡官川崎某(川崎貞孝、1689-1767。幕臣)台命を奉じ、和州吉野山および常州桜川等の地より桜の苗を植ゑらるるところにして」とあり、「なかんずく金井(こがねい)橋の辺りは佳境にして」と記されています。これが、本作品の言う「武蔵小金井」に当たります。『江戸名所図会』には、「小金井橋春景」(4-p76、p77)を含め2図が掲載されています。おそらく、それに対応させて、広重『絵本江戸土産』第4編は、「小金井堤両岸満花」「其二小金井橋花見」の2図を掲載しています。


 ところで、先の『江戸名所図会』(4-p80)によれば、桜の数は、「おほいに減じておよそ三百株あまりあり」とあって、かなりの老木化を示唆する記述があります。そのためか、『絵本江戸土産』第4編の扉の絵は、「小金井の櫻」と題して、本作品と同様、洞のある桜の背後に富士が見える構図となっています。おそらく、同時期の『不二三十六景』「武蔵小金井堤」の作品も同じ着想と思われるます。これらの作品の系列上に、『冨士三十六景』の本作品があることは間違いなさそうです。


 なお、本作品は、『冨士三十六景』では珍しい「近像型構図」を選択しています。日常景を旨とする本シリーズの中では違和感があり、明らかに北斎を感じさせるものです。おそらく、本作品は本来的には江戸百に収められるべきものとして構想されたにもかかわらず、江戸百「玉川堤の花」を優先させた版元の営業戦略から、前述したように、意図的にシリーズから外されたのではないでしょうか。

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