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「戸塚」 歌川広重 伊勢屋仙三郎

062_new ◇初版 斎号:一立斎

「重の屋光雄
白雲に よう似た花へ 舞う蝶も とまりとまりの 枝の夕霧」

06_new ◇後版 意匠:ヒロ

「重の屋光雄
かまくらを 出る鰹に つれたちて やほないなかに なく郭公」


 広重の絵は同じなのに、上部の狂歌が違う作品があります。斎号「一立斎」とある作品の方が初版で、そこに埋木をし「ヒロ」の意匠を入れた方が後版であることは、摺り跡を確認すると判ります。描かれる女性は、簪を刺した整ったその髷姿から武家風の出で立ちと見えます。おそらく、戸塚の宿と武家の女性の旅姿ということから、多くの庶民は、忠臣蔵のお軽を想像することでしょう。忠臣蔵の三段目の「裏門」の場から発展した清元の舞踊劇「道行旅路花婿」(落人)(『カブキ101物語』160頁参照)では、富士を背景に腰元お軽と早野勘平はお軽の実家に落ち延びます。戸塚の夕暮れ時、松の木の背後に富士のシルエットを浮かび上がらせているのは、そのための舞台装置です。

 しかしながら、初版の狂歌は、忠臣蔵を想起させる材料にやや欠けるきらいがあると指摘されたのでしょう。後版では、あえて「かまくら」という言葉を入れて、鎌倉の足利館から落ちてゆくお軽と勘平の道行きに結びつけたものと推測されます。また、画中の郭公(ほととぎす)もうまく狂歌に採り入れています。この一事によって、作品の売れ行きが大きく左右されるのですから、広重が風景を描く際、歌舞伎などの影響を読み込むのは当然です。

*保永堂版東海道「戸塚」は副題「元町別道」となっていて、画中にも「左かまくら道」の文字が見えています。そして、女の旅人が笠の紐を解こうとしていることに気づきます。これは、『東海道五十三對』の「戸塚」と重ね合わせると、やはり、忠臣蔵の「道行旅路花婿」を意識していると考えざるをえません。

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