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三代豊国、国芳、広重の東海道五十三對

 歌川広重の出世作となった『東海道五十三次之内』(天保4・1833年開版、保永堂版東海道と略す)のいくつかの作品は、秋里籬島編『東海道名所図会』全6巻(寛政9・1797年刊)の挿絵を参考にして描かれています。つまり、挿絵を担当した鍬形蕙斎や竹原春泉斎などの図版が利用されているということです。ここまでは、近時、多くの人に認められるようになってきています。広重が同図会を傍らに置いて制作に励んだということは、同時に、同図会を読み込んでいたことを意味し、したがって、同図会の記事などの文章からも影響を受けていたことが推測されます。保永堂版東海道の制作動機を探るにあたっては、広重の作品と『東海道名所図会』の図版とを比べるだけでなく、記事とも対比する必要があるということです。

 従来より、広重作品は実景と異なっている部分が少なくないと指摘されていましたが、その理由の一つは、『東海道名所図会』の記事に基づいて構想されたところがあるのではないかと推理しています。そして、「雪の蒲原」や「雨の庄野」の謎もこの仮説から説明できるのではないかと考えているところです。その一部は、すでに、当ブログ『広重と国貞の東海道五十三次』で開示しておりますので、ここではこれ以上は触れません。

 実際に、『東海道名所図会』の図版だけではなくて、記事が浮世絵制作に影響を与えた例があります。それが、当ブログで取り上げる『東海道五十三對』というシリーズなのです。ここでの目的は、『東海道五十三對』が制作の動機とした『東海道名所図会』の記事に注目しながら、同図会の中から浮世絵師が意識していた記事資料を特定することです。そのうえで、最終的にはそれが保永堂版東海道の制作動機を探る手がかりとなればと期待しています。

 さて、広重の保永堂版東海道の大ヒットを受け、多くの東海道物が企画されました。『東海道五十三對』は、その中でも、三代豊国、国芳、広重の歌川派三大浮世絵師が揃い踏みをして制作に当たったシリーズとして特徴的です。版行年は、名主村田半右衛門(丸に村田)の名主印と改印一印であること、三代豊国の襲名が弘化元年であることから、弘化元年から弘化4年(1844~1847)の間であることが判ります。

 版元は、伊場屋仙三郎、伊場屋久兵衛、遠州屋又兵衛、伊勢屋市兵衛、小嶋屋重兵衛、海老屋林之助の6人です。版元ごとに、詞書きの枠のデザインが統一されています。

 伊場屋仙三郎 : 軍配型団扇 : 日本橋
 伊場屋久兵衛 : 団扇    : 箱根
 遠州屋又兵衛 : 重ね団扇  : 神奈川
 伊勢屋市兵衛 : 長方形   : 藤澤
 小嶋屋重兵衛 : 重ね雪輪  : 川崎
 海老屋林之助 : 海老    : 保土ヶ谷

 シリーズの構成は、各宿駅に因んだ歴史的故事を主として、歌舞伎、人形浄瑠璃などからも題材を得ています。『東海道五十三對』を当ブログの題材に選ぶ第一の意図は、すでに述べた通り、『東海道名所図会』を参考にして描いた作品が多くあるからです。したがって、同図会の中から浮世絵師が重要視したであろう記事を探し出すことが肝要と考えています。なお、『東海道名所図会』は、文章を秋里籬島、挿絵を鍬形蕙斎、竹原春斎などの絵師が描き、各宿駅の故事、寺社の起源、宿駅の賑わい、街道の風景などを伝える地誌、百科事典とも言うべきものです。同図会が、歌川派の絵師も含め、浮世絵師共有の資産として利用されていたことが重要です。広重の保永堂版東海道の読み解きに際しても、同図会の図版・記事ともに対照することが必須なのですが、同図会を全て読み込むことは大変なことなので、『東海道五十三對』を簡略版として利用しようという魂胆なのです。

 ちなみに、京から江戸に向かって記載されている『東海道名所図会』に従って、『東海道五十三對』の宿駅も、シリーズの構成とは逆に、基本的には京から江戸へと読み解いていくことにご注意下さい。


*『東海道五十三對』に関する作品解説として、平木浮世絵美術館『広重・国芳・豊国 東海道五十三對』(2011)参照。

*以下のブログにおいて『東海道五十三對』の画像を掲載しますが、特段の断りがない限り、国立国会図書館の画像を使用させていただきます。画質にこだわる方は、直接、国立国会図書館蔵のものを確認して下さい。

*作品解説の中で浄瑠璃や歌舞伎の内容に触れることがあります。その際、詳細については、渡辺保編『カブキ101物語』(1993・新書館)に委ねることとしています。『カブキ101物語』○頁として引用します。

*秋里籬島編『東海道名所図会』全6巻(寛政9・1797年)に関しては、粕谷宏紀監修『新訂東海道名所図会』全3巻(2001・ぺりかん社)参照。

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