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「日本橋」 歌川国芳 伊場屋仙三郎

012 「手遊ひも ふり出す槍の にほんはし なまこえりさへ みゆる魚市 梅屋」


 「日本橋」は、少女が持つ奴人形(玩具)が槍を振り出す(上げる)様と双六の振り出しとを掛けつつ、その振り出し(出発点)日本橋にあった河岸から「なまこ襟」を連想した梅屋の歌に始まります。残念ながら、縞模様を着る島田髷の美人の襟は「なまこ襟」ではありませんが、その視線の先に河岸となまこ襟とが見えるのでしょう。少女の襟模様は、奴に合わせているようです。これらの江戸風俗に、日本橋の典型的風景である、富士山と千代田(江戸)城とが背後に描かれています。

 『東海道五十三對』シリーズが、詞書き・図版共に『東海道名所図会』に広く基づいていた視点を貫くと、国芳作品は、同図会巻之六の蕙斎政美描く「日本橋」の図版を写しているとも言いえます。従来、江戸の景色ゆえに、敢えて同図会を見て描いたと言うことは全くありませんでしたが、千代田(江戸)城の表現はかなり共通性があります。

 本作品は、『東海道五十三對』「京」と一対となっています。その「京」は、三條大橋の賑わいをにしき織りの経(たて)糸と緯(ぬき)糸に掛けた歌で締められていました(「綾にしき 織れるミやこは たてぬきに ゆきかう人も しげき大橋 梅喜」)。また、広重描く少女は公達姿の京人形を持っており、鹿子模様を散らした着物姿で日傘を肩に担ぐ美人は、先笄(さきこうがい)と呼ばれる上方で好まれた髷を結っています。背後の風景は、『東海道名所図会 巻之一』の「平安城 三條橋」を写したものですし、絵の中の詞書きは、『都名所図会』からの引用です。以上は、先に「京」で述べたことの再確認です。

 江戸風俗・情景と京風俗・情景との対照をその趣向として、都に肩を並べる江戸の矜持を江戸っ子とともに楽しんだことが伺えます。

*保永堂版東海道「日本橋」は副題「朝之景」として、日本橋を南から北に見る視点で、大名行列の朝立ち風景に河岸の男達を配する巧みな構成を採用しています。江戸の日本橋ですから、敢えて『東海道名所図会 巻之六』の日本橋周辺の図版を参考資料にしているとの指摘はありませんが、大名行列を配した点は同図会の方が先行していると言えます。同図会に従って、作品を「京」から「江戸」に向かって見てくると、同図会の影響が意外に大きいことが浮かび上がってくるのではないでしょか。

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