七十 大津 小万
版元:湊屋小兵衛 年代:嘉永5(1852)年7月 彫師:柳太郎 国芳作品は、寛延2(1749)年大坂竹本座初演の浄瑠璃『源平布引瀧』の第三段、別名「実盛物語」から構成されています。源義朝亡き後、源氏の白旗は、義朝の弟義賢、奴折平(源氏の侍多田行綱)、そしてその妻「小万」へと託されます。しかしながら、追っ手に迫られ、小万は源氏の白旗を口にくわえて琵琶湖に飛び込み逃げます。その場面を絵にしたのが本作品で、左岸には捕り手の一団が見えています。なお、小万の背後に壮麗な船がありますが、これは竹生島詣の平宗盛の御座船で、一旦はこの船に小万は助けられるのですが、乗り合わせていた斎藤別当実盛に、小万の片腕は白旗もろとも斬られてしまいます。密かに源氏に加担する実盛が白旗を平家に捕られるのを避けるためのことです(詳細は、『カブキ101物語』90頁参照)。
水の流れと水中での人物表現は、国芳の真骨頂です(作品二「板橋」参照)。「大津」の宿場が琵琶湖に面していることから、琵琶湖に飛び込んだ烈女「小万」が主役とされています。標題は、小万の父と子が琵琶湖で漁をすること、また刀は小万の形見であることに因んで、それぞれ周りに描かれているのだと思われます。
コマ絵は明らかに源氏の白旗です。英泉・広重版木曽街道の「大津」は、宿場町から琵琶湖を望む風景となっています。国芳のコマ絵は、従来の作品を見てくるとこの水の流れは清水を表現していると推測され、しかも、山並が描かれていることを勘案すると、英泉・広重版とは視線を反対に向けて、逢坂山(逢坂の関)付近にあった関の清水をイメージするものではないでしょうか。保永堂版東海道の「大津」は「走井」を題材としていたので、それとの重複を避けたという見解です。
| 固定リンク
「木曽街道六十九次」カテゴリの記事
- 木曾街道六十九驛 目録(2013.06.29)
- (七十一) 京都 鵺大尾(2013.06.10)
- 七十 大津 小万(2013.05.30)
- 六十九 草津 冠者義髙(2013.05.29)
- 六十八 守山 達磨大師(2013.05.27)
コメント