十三 倉加野 自来也
版元:住吉屋政五郎 年代:嘉永5(1852)年5月 彫師:須川千之助 自来也(児雷也)は、文化3(1806)年より刊行された読本『自来也説話』(じらいやものがたり)の主人公で、蝦蟇(がま)や大蛇(おろち)の妖術を使う義賊として語られています。その後、天保10(1839)年より刊行された合巻『児雷也豪傑譚』(じらいやごうけつものがたり)でさらに人気を博し、歌舞伎化に至ります。本図は、谷に落とされた赤ん坊を通り合わせた自来也(三好家浪人尾形周馬)が拾い上げる場面と思われます。画中右下方に家来に抱えられた赤ん坊侶吉(ともきと)が見えています。一方、自来也一行はどこから赤ん坊が落ちてきたのかと上方を眺めている情景です。
なぜ「倉加野」が「自来也」なのかですが、画中に焚き火が描かれていることを考えると、「倉加野」に「暗がりの中」あるいは「暗い野」を読み込んで、そこに自来也一行がいる場面ということでしょうか。標題に、鋸、才槌、がん灯などの盗賊の七つ道具が描かれているのも、暗がりで活躍する盗賊、つまり、暗がり→盗賊→自来也という発想を物語るものです。
コマ絵の形は、自来也を象徴する蝦蟇の妖術から、蝦蟇の正面姿を意匠したものです。中に描かれる風景は、英泉・広重版木曽街道の「倉賀野」ではなく、一つ手前の「新町」を参照すると、弁天橋を渡った後、倉賀野までの間の景色と考えられます。英泉・広重版は道を堤方向に曲げてしまっていますが、それを直線に修正したとも言えます。『木曽路名所図会』巻之四によれば、(京より江戸に向かって)「左の方に赤城山見ゆる 富士に似たり」とあります。コマ絵の背景の山は、したがって、赤城山ということになります。
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