卅二 洗馬 武蔵坊弁慶 土佐坊昌俊
版元:八幡屋作次郎 年代:嘉永5(1852)年8月 彫師:庄治 ここに描かれているのは、『義経記』巻之四の挿絵を元絵とする、「弁慶尻馬」と言われる古典的画題です。『義経記 』(全八巻)は、室町時代に成立した源義経を主人公にした軍記です。最初に刊行されたのは古活字版で、それに次いで寛永期に刊行された巻は、全部で66図の挿絵があり、丹、緑、黄の筆彩が施されています。この種の彩色本は「丹緑本」と通称されています。この『義経記』から、多くの人形浄瑠璃、歌舞伎などが生まれ(『歌舞伎101物語』「御所桜堀川夜討」「義経千本桜」など参照)、浮世絵の題材にもなっています。
画題は、源頼朝の命を受けて、堀川館にいる源義経を討とうと計画している土佐坊昌俊を、武蔵坊弁慶が逆に堀川館に召し出そうとして、弁慶が乗ってきた馬に乗せ、さらにその馬の尻に弁慶も乗って、手綱を取って館に向かおうとしている場面です。「馬の背(に乗る弁慶)」→「背馬」→「洗馬」となっています。標題の周りは、兜、長刀、垂れ、刀、松明、弓と矢など、昌俊一行の堀川夜討ちを想像させる武具などで囲まれています。
コマ絵の形は、弁慶の着物の文様である仏具「輪宝」と思われます。『木曽路名所図会』巻之三の「洗馬」には、「桔梗原」「義仲馬洗水」を紹介する図版および文章があります。英泉・広重版木曽街道の「洗馬」は奈良井川と「桔梗原」のイメージで、国芳のコマ絵の中に描かれる風景は、「義仲馬洗水」、すなわち「太田清水」からの穂高岳眺望図と考えられます。
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