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14.東海道五拾三次之内 原 朝之富士 :原ノ圖

 広重の「原」で一番目を引くのは、風景を囲む枠から富士の頂上が飛び出ている大胆な構図です。前出「箱根」と同様、富士を描く作品は、すでに版行されていた北斎の『冨嶽三十六景』を意識せずにはおられず、おそらく「凱風快晴」(赤富士)に対抗して、朝焼けの「朝之富士」の景となったのでしょう。ただし、北斎の富嶽シリーズの根底には、富士信仰の絵画的表現という趣向がありましたが、広重はそのような宗教心とは離れて、富士を愛でる一般庶民感覚を大切にしている印象があります。

 富士山の前には、ゴツゴツとした岩肌を見せる愛鷹山が配され、また、浮島が原(湿地)には二羽の鶴が描かれていて、富士、鷹、鶴と縁起の良い情景が敢えて作り出されています。この風景配置は、前景の三人の気持ちに添うものとして選ばれたと考えています。従者を連れる二人の女性が富士を振り返る様は、『仮名手本忠臣蔵』末広がりの八段目「道行旅路嫁入」の情景を彷彿とさせるもので、高揚する花嫁とその母の気持ちに応じる景色なのです。逆にそう考えれば、背景の富士は歌舞伎舞台の書き割りとして、大胆に描くことも可能なのです。戸無瀬と小浪になぞらえられた二人の女性の従者の着物には、広重の「ヒロ」を意匠する紋様が施されていて、広重が当該シリーズの出来にある程度自信を持てたことの表れではないかと思われます。

Kunisada014_n  ところで、国貞の美人東海道では、女の二人連れが消され、意外にも白浪(しらなみ)風の美人が描かれているのです。これは、広重の意図を読み込んで、忠臣蔵を題材にする二番煎じを避けたものと考えられます。実は、この女白浪こそ、「三島のおせん」がモデルにされていると推測しています。おせんは、仇討ちに失敗し、返り討ちにあいますが、その出自は白浪でした。「箱根」と「三島」に戸無瀬と小浪を前倒ししたため、国貞は「原」にはおせんを持ってきました。これは、広重の「原」が戸無瀬と小浪をモデルとしているからに他なりません。国貞と版元の、苦心の並び替えです。 

*掲載作品は、国立国会図書館蔵です。

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