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11.東海道五拾三次之内 箱根 湖水圖 :箱根之圖

 「箱根」の作品は11番目で、当ブログの便宜的区分で言うと、第三セットの巻頭に当たります。実質的にも、巻頭に相応しいダイナミックな絵組みです。直感的には、広重ではなくて、北斎の作品ではないかという印象を持ってしまいそうです。この関連でおもしろいのは、北斎の『冨嶽三十六景』「相州箱根湖水」は、逆に、その表現が静謐で北斎らしくないと時々言われることです。実は、北斎の作品にも大胆なトリックが隠されているというのが私見ですが(当ブログ・冨嶽三十六景「相州箱根湖水」参照)、一見すると動きのない北斎の創作を広重は意識していて、技法は中国山水画風によりながら、敢えて、「神奈川沖浪裏」の大波のような、実景を離れた山を描いたのではないかと想像しています。

 具体的には、富士信仰の中心地の一つ、箱根権現の坂を大名行列が芦ノ湖に下っていく風景で、その先は、箱根の関所、箱根峠へと続き、天下の険のイメージが先行する作品です。現実の風景を見ていないからこそ、また北斎の作品があったからこそ、広重は大胆な絵組みで描くことができたという考えです。

Kunisada011_n  国貞はと言いますと、旅姿の女性を前景に持ってきました。関所、とくに箱根の関所は、「入鉄砲に出女」という言葉がそのまま当てはまる厳しい取締があります。ここに描かれる女性は、相当一途な思いで旅をする人でなければなりません。『曾我物語』によると、曾我五郎は幼名を箱王丸と言い、幼い頃から暴れん坊であった子の将来を気遣った母は、箱根権現に稚児として預け、仏の道に入ることを望んだとあります。美人東海道は、そんな母の旅姿を想像させるものでしょうか。

 あるいは、母の思いと言うならば、『仮名手本忠臣蔵』の母・戸無瀬、娘・小浪の旅路の風情が強く思い起こされます。国貞が、広重よりも、富士山を大きく描いて背景に使用しているところを案ずると、富士を背景にする八段目の「道行旅路嫁入」の場面が浮かび上がってきます。同八段目では、両名は鎌倉から京に向かうことになりますが、古来より、関所は、恋の思いになぞらえられる場所なので、重ね合わせることも可能と考えられます。

 国貞から翻って推測すると、広重の絵組みは、箱根(湖水)ではなくて、鎌倉もしくは伊豆(海岸)からの眺望に細工を施したようにも見えます。ちなみに、同忠臣蔵八段目を描く北斎作品に、同様の構図が発見される事実があります。広重作品の制作方法の秘密に関する事柄ですが、ここでは問題点の指摘に止めておきます。

*掲載作品は、国立国会図書館蔵です。

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