« 冨嶽三十六景・表富士(3) | トップページ | 裏富士「本所立川」 »

裏富士「東海道品川御殿山ノ不二」

 『冨嶽三十六景』中、墨色の輪郭線で摺られた追加の10枚を「裏富士」と呼んで、以下、別個に解説していきます。「表富士」が、富士神霊を近景の庶民生活の中に如何に降臨させるかにかなり腐心していたのに対して、同シリーズの好評を受けて版行された「裏富士」では、そのような工夫は特別には必要ない状況になっているようです。その意味で、風景画もしくは名所絵への過渡期の作品群とも言えます。

Hokusai39 最初に採り上げるのは、「東海道品川御殿山ノ不二」 です。御殿山は桜の名所として有名で、花咲く桜越しに富士を眺望する構図ですが、主体は桜見物をする人々、接客する人々を近景に鳥瞰する作品です。富士浅間神社の祭神が木花開耶姫命であることを思い起こせば、近景に展開するのは、この世の木花開耶姫命の世界であることが直ちに理解されることでしょう。

 この世の木花開耶姫命の世界は、身分の違い、男女の違いに関係なく、また、大人や子供も楽しめる所として描かれています。普遍する富士世界の描写です。題名は「御殿山ノ不二」となっていますが、作品の趣向は、「御殿山が富士」世界であることを謳うものです。画中左で酒を酌み交わす三人は、ここが富士頂上と同様であることを示すもので、その下に見える品川宿のお寺と思しき三角の瓦屋根は、さらに近景に富士世界があることを補強する工夫と思われます。

 御殿山に描かれる人物中、とくに注目すべきは、やはり、扇子を翳している二人組の男達です。脇差しを二本差しているので武士なのでしょう、棒に花見の弁当を括り付け歩いていますが、頭上より、日が燦々と照っている仕草です。御殿山を富士頂上の日神世界と同視していることが判ります。藍色の日傘も同様の目的です。茶店の前で左手を上に挙げる小僧が担ぐ風呂敷には、山形に三つ巴の版元西村屋の商標が描かれています。浮世絵の版木も桜の木ということで、桜繋がりでしょうか。

 「東海道品川御殿山ノ不二」は、庶民の花見姿に富士世界を垣間見る趣の作品であり、富嶽シリーズ版行の目的を端的に語る作品と言うことができます。 

*掲載の資料は、アダチ版画です。

|

« 冨嶽三十六景・表富士(3) | トップページ | 裏富士「本所立川」 »

葛飾北斎」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/197953/47897413

この記事へのトラックバック一覧です: 裏富士「東海道品川御殿山ノ不二」:

« 冨嶽三十六景・表富士(3) | トップページ | 裏富士「本所立川」 »