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裏富士「本所立川」

Hokusai37  画中右下の立て掛けた材木等に、右から「馬喰丁弐丁目角 西村」、「西村置場」、「永壽堂仕入」、「新板三拾六不二仕入」などの書き入れがあります。したがって、裏富士シリーズの最初の一枚目の可能性が高い作品と言えます。表富士で意表を突いた構図として好評であった、「遠江山中」の木挽きスタイルを中央に置いたのも、新版としての意気込みを物語るものです。

 鋸引きされる材木が遠景の富士の峰に繋がるように見える工夫は、この材木置き場が富士世界の一端であることを示すものです。左側、高く積み上げられた材木の上で仕事をする職人を富士頂上よりも高く描くのも、やはり、本所の立川(竪川)を富士頂上世界と同一視しているからです。もともと、木々や柱は神の依代として使われるものですから、この材木置き場は、木の神の世界、すなわち、木花開耶姫命の恵みの世界と見ることができます。

 ちなみに、鋸を引く職人は、切り口に楔(くさび)を打ち込んでいます。楔を打ち込まず作業をしていた、「遠江山中」で指摘されたであろう誤りを、ここでは正していることが判ります。その分、日常の景色によく溶け込んだ表現となっています。富士神霊が、「遠江山中」から「本所立川」まで降臨し、江戸市中に近在していることが感じられます。

 北斎は、富嶽シリーズ共通の視点にしたがって、本所の材木問屋の材木置き場に富士の恵みの世界の一端を発見し、それを作品化したのですが、同時に、最初の一枚目として、これが裏富士版行の趣旨であることを宣言したと考えられます。以下、シリーズでは、富士(神霊)の恵みを各地に探しだし、紹介していくこととなります。その意味で、名所絵への移行過程の作品群と見なすことができます。

*掲載の資料は、アダチ版画です。

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