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裏富士「従千住花街眺望ノ不二」

Hokusai38 富嶽シリーズでは、「武州千住」「隅田川関屋の里」に次いで、三枚目の千住関連の作品です。千住地域が、富士講の拠点の一つであることと密接に関係があると思います。作品の題名も、状況説明的です。

 中景は刈り取り後の田で、秋の収穫が描かれています。これは、富士の恵みの世界もしくは木花開耶姫命の豊穣の世界を表現するものです。畦に二人の農婦が腰を下ろしているのは、背後の新吉原にいる女性達を暗示させる工夫と見ています。視線は、近景の大名行列に注がれているようです。その後ろには、題名にあるとおり、新吉原の花街があります。これも、春、桜に象徴される世界ですから、この世の木花開耶姫命の世界と解すべきなのかもしれません。

 従来の富嶽シリーズの傾向からすると、新吉原、秋の収穫とそれぞれで一枚の作品として成立してもおかしくないところ、さらに、近景には、北に向かう大名行列が描かれています。その一行の何人かは、新吉原、あるいはその先の富士に視線を送っているようです。これら三層の主題を統べるものとして、遠景に富士があるのですが、富嶽シリーズの作品は単一の視点で説明できるものがほとんどなのに、当該作品は趣をどこに捉えたらよいのか、やや曖昧さを感じます。前述しましたが、題名のとおり、状況説明的です。

 富士の恵みの世界は、花街、農婦の座る田圃、武士が歩く街道、土産の売店など、いずれにも等しくあるということなのでしょうか。一見すると、広重の東海道五十三次の一図かとも思える作品です。裏富士の多くが名所絵や街道物の要素を伴っているのは、その版行の意図に、意外にも広重作品あるいは街道ブームを意識したものであったからではないかと考えています。

 近景の、南部藩とも言われる大名の一行は、日光街道(奥州街道)を進んでいます。日神は富士信仰を彩る要素ですが、日光をそれと同一視するのは深読みし過ぎでしょうか。いずれにせよ、裏富士の過半は、街道や旅がテーマとして加わってきています。これを街道物への移行を意図した結果と見るか、街道の旅を富士信仰の旅に帰結させようとする布石と見るかは、次回以降の作品をもう少し検討しながら、結論を出したいと思います。

*掲載の資料は、アダチ版画です。

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