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冨嶽三十六景「相州江の嶌」

Hokusai35  当該作品は、庶民生活が描かれている作品と富士世界それ自体が描かれた作品の境界線上にあります。ここでは、先の「相州七里濱」との繋がりから、後者の視点で作品を読み解いてみるつもりです。一見して判ることは、奇抜さを抑えた自然な風景表現となっているという点です。

 絵組みの妙を得意とする北斎らしからぬ作品ではありますが、干潮時に現れる砂嘴によって陸と繋がる江の島の「海の道」という奇景が主題です。このように落ち着いた表現に至った理由は、江の島神社という宗教世界を描く際の礼儀からきています。逆に言えば、富士の景色よりは、江の島神社を厳かに描くことに主眼があるということでもあります。

 江の島神社は、江戸時代、弁天信仰の一大拠点であり、また、江戸から格好の小旅行先として賑わいました。「信州諏訪湖」と並べて考えれば、江の島弁天の御利益は、遠望できる富士に由来するものと感じられたのではないでしょうか。江の島の岩屋は、富士風穴にも繋がるという伝説もあり、「相州江の嶌」に見られる風景は、富士の水神としての世界でもあるのです。とすれば、江の島に通じる「海の道」は、富士神霊に通じる「神の道」でもあり、その神景には奇抜な表現方法は不必要と言わなければなりません。

 富嶽シリーズでは、非常に様式化された静的描法を採る作品群があります。通常、「北斎らしくない」と言われるものですが、実は、その背後にあるのは、神仏の世界に対する敬意であると思われます。したがって、その一群の作品については、私たちも背景にある神仏世界を意識しなければなりません。

*掲載の資料は、アダチ版画です。 

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