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冨嶽三十六景「相州箱根湖水」

Hokusai28  北斎が神仏世界を描く際には、躍動感を抑えた静的な表現を採ることが少なくないと既述しましたが、その典型が「相州箱根湖水」です。「相州江の嶌」では、まだ、写実的表現の風景画と言うことができました。ところが、当該作品では、すやり霞漂う中に、芦ノ湖が波一つなく描かれています。このような作品においては、背後に隠されている神仏あるいは信仰世界を明確に意識しなければなりません。

 作品中央部、湖畔やや右に、山岳信仰の霊場、箱根神社が描かれています。主祭神の一柱には、木花開耶姫命が祀られ、まさに富士の神霊世界そのものが描かれています。したがって、厳かな、やや類型的描写となっているのです。「信州諏訪湖」で述べましたが、湖水図一般には、富士の水神としての世界が描かれていることが多いのです。本図もそれに該当しています。

 富士は冠雪する頂上部分のみが見えているに過ぎません。一方、芦ノ湖は藍一色の湖水として表現されています。ここで思い出していただきたいのですが、「武州玉川」では、富士の山腹と玉川ともに藍の同系色で摺られ、富士と玉川とが一体となって、さらに大きな富士に見えました。「箱根湖水」でも、芦ノ湖が富士の山腹を直接構成し、全体でさらに大きな富士を形造っているのです。このような表現を採ることによって、芦ノ湖が富士神霊の一部であることが色彩的に理解でき、また、湖畔の箱根神社の霊験もいかばかりのものと映ることでしょう。

 「相州箱根湖水」は、絵組み自体は定型的構成かもしれませんが、錦絵という観点では、ベロ藍を巧みに使いこなした、色使いにおいてちょっとした仕掛のある作品と言うことができます。富嶽シリーズの相州の作品は、いずれも、読み解くのに苦労するものばかりです。

*掲載の資料は、アダチ版画です。

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