冨嶽三十六景「甲州三坂水面」
江の島神社、箱根神社に続いて、当該作品は、富士御室浅間神社を描いています。祭神は、木花開耶姫命です。作品の中央部右のこんもりとした森、河口湖畔にそれは位置しています。御坂峠から見た河口湖越しの富士は、神仏(信仰)世界の表現として静寂な装いを整えているようです。
気になるのは、湖水に映る、冠雪する逆さ富士です。実際の富士は、夏山として描かれていますので、実景描写ではないことは確かです。また、二つの富士が線対称にはならず、ズレた位置に描かれているのも、さらに実際の姿からは離れます。もとより、御坂峠からは、逆さ富士は見えないでしょうが…。
富嶽シリーズの湖水図に共通する特性として、富士神霊の水神としての要素を描いているという視点は、ここでも妥当するものと考えられます。したがって、水面に映る富士は、実景の反射ではなくて、神霊(水神)そのものの姿なのです。河口湖がそのような霊場であるが故に、湖畔に浅間神社があるのであり、また、逆に、社の神域であるが故に、富士の本当の姿が映し出されるのです。冠雪する富士は、神聖さや宗教性の象徴です。
ちなみに、作品を逆さまにして富士の雪の部分を見ると、白鷹が飛翔する姿が浮かんできませんか。木花開耶姫命の化身した姿なのかもしれません。いずれにしろ、吉景に違いありません。
なお、蛇足ながら、「信州諏訪湖」は、ミシャグジ=(ミ)サクの神の霊地でしたが、「甲州三坂水面」も、ミサカ=(ミ)サクの神と係わる霊地であることが、地名より推測されます。
*掲載の資料は、アダチ版画です。
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