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冨嶽三十六景「信州諏訪湖」(3)

Hokusai132  ホノルル美術館に所蔵される『勝景奇覧』という題名を持つ団扇絵を、『大北斎展図録』から掲載させていただきます。「前北斎卍」と記載されているので、『冨嶽三十六景』版行後の作品と考えられます。しかしながら、はじめから団扇絵として創作されたとは考えられないので、版下絵それ自体は富嶽シリーズ版行時と同じ頃の可能性もあります。題名は、「信州 陬防(諏訪)湖」とありますから、富嶽シリーズの「信州諏訪湖」と同じ考案もしくは版下絵に基づいていることも推測されます。

 同団扇絵を詳細に観察してみると、右端の岸に二本の松が描かれており、実は富嶽シリーズの松と同じであることに気付きます。ほぼ同じ風景を視点を変えて描いているということです。団扇絵の方は、漁師に引き連れられた旅人三名が、対岸の湖に浮かぶ高島城を眺めている構図です。また、湖上には一艘の船が漕ぎ出されており、これも、富嶽シリーズにも小さくですが、描かれています。

 ところが、両方の作品を見比べてみると、決定的な違いが存在しています。すなわ、団扇絵においては、遠景に富士が描かれておらず、また、近景に弁天祠が見えないのです。これは、富士と弁天祠とが、北斎の作品表現において密接に関連していることを物語っています。団扇絵および富嶽シリーズとも、藁束が木々などの間に置かれ、秋を想像させる点では同じなので、弁天祠だけが描かれていないのはかなり気になるところです。

 富嶽シリーズの「信州諏訪湖」において、作品の中央部分に祠が描かれているのは、偶然ではなく、かなり意識的であり、富士を描けば祠も入れる、逆に、富士を描かなければ祠も入れないという北斎の意志を感じます。富士と祠の関連性の傍証として、先の団扇絵を紹介しましたが、この理屈は、その他の作品にも妥当し、たとえば、「駿州江尻」の中景部分、池の傍らに祠が描き入れられている際にも当てはまるのです。つまり、祠は必要があって描かれているのです。

 「信州諏訪湖」は、富士神霊の水神としての側面を捉えるもので、富士を水の恵みの源泉として表現しているのだと思われます。富嶽シリーズの湖水図一般に内在する思考とも考えています。

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