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冨嶽三十六景「礫川雪ノ且」

Hokusai21  小石川の小高い丘の上にある茶屋からの雪見風景です。浮世絵を見る庶民には、茶屋から富士を「見下ろす」構図として映っています。したがって、茶屋周辺を富士頂上世界に見立てる作品であることは、既述した説明から理解していただけると思います。

 富士頂上の雪と小石川の早朝の雪とを対照し、ともに雪に覆われた富士の神霊世界であることを表現しています。この一瞬、小石川の茶屋の地は、富士頂上(神霊)世界となり、茶屋の客達もその世界に包容されているのです。

 近景が雪景色である作品は、富嶽シリーズでは当該作品が唯一です。雪景色は、神聖さや荘厳な雰囲気を描写する際に使用されることが多く、また、場を一新するという時にも利用されます。本作品は、富嶽シリーズでは、藍摺り十枚の版行が終わって、ちょうど後半部分の最初の一枚目という位置にあります。そこで、北斎は、これから後半の版行が始まることもあって、雪景色でお色直しを図ったと考えられます。

 詳細に作品を見ると、茶屋の中の女が指す方向に小さく三羽の鳥が描き込まれています。雪積もる茶屋と富士とを仲介する存在として見事に使われています。近景の茶屋から出発する視線は、大空に舞う鳥に行き着き、そして富士に落ちていきます。富士の神霊は、逆に、鳥を経由してあるいは鳥となって、小石川の地に降臨してくるようにも感じられます。空に舞う鳥などを、神霊や魂の飛翔とも感じる日本人の心理を思い起こしていただきたいと思います。前回の「下目黒」の鷹も、このようなコンセプトから分析できるかもしれません。

*掲載の資料は、アダチ版画です。 

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