冨嶽三十六景「東海道吉田」
不二見茶屋からの富士眺望の図です。「礫川雪ノ且」と似たモチーフで、富士を「見下ろす」構図の一類型かもしれませんが、富士見窓の風景が一幅の絵のようになっているところが本来の狙いです。また、その前の席で、富士を見る美人二人まで含めて一枚の絵と見ることができます。
指をさして案内をする茶店の女将と美人の視線を通して、浮世絵を見る者は富士と結びつき、富士世界を茶店の中に見ることができます。二人を乗せてきた駕籠かきが草鞋を木槌で打って柔らかくし、また汗をぬぐう様や、反対側の旅人二人が腰掛けてくつろぐ様子も含めて、富士(神霊)世界ということができます。以上を茶店の入り口の柱が額縁のように切り取り、いくえにも重なる画中画のようになっています。画中画の目的は、あくまで近景の庶民生活を富士世界に取り込むための方法であって、その絵組みだけを面白がっているのではないと考えています。
お店の看板には、名物の宣伝として、「お茶つけ」「根元吉田ほくち」とあります。火口(ほくち)は火打ち石の火を受けるもので、火口に富士見茶屋の美人というのは、富士火口の木花開耶姫を想起させます。そんな事情もあって、「東海道吉田」は女性達を中心とした構成になっているのかもしれません。
なお、手前の旅人の持ち物・服装などには、版元西村屋・永寿堂(永・壽・山に三つ巴)の商標が仕組まれています。販売目的の浮世絵の性格がよく出ています。
*掲載の資料は、アダチ版画です。
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