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冨嶽三十六景「武陽佃嶌」

Hokusai11  「上総ノ海路」「常州牛堀」に続いて、三枚目の舟と富士を対比する作品の紹介です。近景に七艘の舟、中景に石川島と佃島、そして遠景には富士が姿を覗かせています。

 いつものように、三角形の相似形を見つける前に、富士と舟との違う観点からの結びつきをお話しします。描かれている七艘の舟のカーブする舳(へさき)や船頭の操る棹先が富士に向かっていることです。富士と舟とが見えない綱で結ばれているかのような構図なのです。

 当ブログで「甲州三嶌越」について解説した際、諏訪の御柱の話に触れましたが、ここでは、善光寺のご開帳から関連する事柄を拾ってみます。ご開帳の間、善光寺の本堂前には回向柱が立てられます。実は、この柱と前立本尊との間には金糸(紐)が張られ、回向柱に触れることは、前立本尊にも触れて、その御利益を得ることと同じ意味を持って受け取られているのです。回向柱が仏様の依代の役割を果たしているのですが、北斎の「武陽佃嶌」の作品では、富士と海上の舟とが視線の流れで結ばれ、舟が富士神霊の受け皿となっている感覚に襲われるのです。したがって、荷物を運ぶ者、釣りをする者、海路を旅する者など舟上の全ての人々は富士と繋がり、富士の世界に抱かれ、富士神霊の御利益を受けるということが語られる仕立てなのです。

 そのうえで、手前の三角形に荷物を積む舟に目を向ければ、そこには日常の中の富士(塚)が見えてきます。近景の舟上の富士、中景の佃島(住吉神社)、遠景の実景の富士とが一直線上に並び、「武陽佃嶌」の作品は、安寧な神々の世界を描いたものであることが浮かび上がってきます。庶民としては、こんなお目出度い浮世絵は是非買い求め、飾りたくなるのではないでしょうか。

*掲載の資料は、アダチ版画です。

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