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冨嶽三十六景「登戸浦」

Hokusai25  「遠江山中」の説明に際して、二本一組の柱を二つ立てる構図が北斎には時々あると言いましたが、今回の浮世絵もその典型です。大小二つの相似する鳥居を絵組みの中心に据えていて、大きい方の鳥居からは、富士が望めます。

 この鳥居は、現在の千葉市にある、登渡(とわたり)神社のものです。したがって、その神社の鳥居として神の在りどころを知らしめるのが、本来の役割です。ところが、視点を変えると富士の鳥居でもあることが絵の趣とされているのです。つまり、絵の中の登場人物達は登渡神社前の海岸で潮干狩りなどをしているのですが、浮世絵を見る庶民には、富士前方の海岸で潮干狩りをしていると映るのです。

 「遠江山中」の作品でも、二本の大きな柱の間から富士が望めました。「登戸浦」と対比すれば、そこでも述べましたが、その柱は富士を祀る鳥居に見立てられていたことが理解していただけたことでしょう。この鳥居見立ての絵組みは他にもありますので、この後、改めて触れたいと考えています。

 さて、画中の鳥居が富士の鳥居でもあると考えると、潮干狩りをしているこの場所は二つの神社の結界が交錯するところとなります。これも、後日、何度か触れることになりますが、北斎には結界の交錯を作品の中心に置く構図が少なくありません。いずれにしろ、「登戸浦」では鳥居が富士神霊の降臨手段として使われており、同時に、その富士世界では、男達、母や子、女達も生き生きと現在できうることが描かれています。遠くの富士ではなく、近くの海岸にこそ、北斎の描きたい庶民生活が展開していて、それがこのシリーズに共通する主題です。

 ちなみに、この登渡神社には富士塚が存在すると言います。とすると、登戸浦は二つの富士に守られた、庶民にとっては極めて縁起の良い海岸ということになります。

*掲載の資料は、アダチ版画です。

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