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冨嶽三十六景「甲州石班澤」

Hokusai14_2  画面中央の岩場の上に網を打つ漁師が立ち、その傍らには魚籠(びく)を見守る童がいるという、孤高な人間像を感じさせる作品です。この浮世絵のどこに、富士の象徴である三角形が隠されているのでしょうか。

 漁師の打つ綱に注目していただくと、漁師の右手の綱が直線に延び、漁師の頭を頂点にそこに富士の三角形が見えてきます。網を打つ行為が神業となって、富士を出現させているのです。富士に似た形なのではなくて、富士と見なければならないのです。富嶽の共通のテーマは、浮世への富士世界の具現化です。とすれば、当然、漁をするこの岩場に富士の神霊世界があることが判ると思います。漁をする者、それを手伝う童にとっては日常の何でもない行為が、それを描いた浮世絵を見る者には、富士世界を構成する、仙人の神業のように、また神童がいるかのように見えるのです。背後の富士が単純な一本線で描かれており、漁師の打つ網のようにも見えます。この両者の対照が、当作品の狙いであったはずです。

 『冨嶽三十六景』という題名に引きずられて、富士の景色がシリーズ化されていると考えてしまいますが、実は、日常の中にある富士(神霊)世界が重ねて描かれているのです。浮世を描く浮世絵の本質からすれば、当然の視点ですが。三角形を重ね合わせる北斎の構図も、少なくとも、美術的技法だけから発想されたのではなく、富士信仰の表現として自然に生み出されたものでもあったと考えています。

*掲載の資料は、アダチ版画です。

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