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冨嶽三十六景「甲州犬目峠」

Hokusai08  舟越しの富士図をいくつか続けて見てきましたが、今回は、甲州街道犬目宿の峠越えの富士です。『冨嶽三十六景』刊行を動機付けた出来事として、江戸・関東一円に流行した富士塚の建設が挙げられます。言い換えれば、庶民に広がった富士を身近に体験してみたいという機運です。

 この富士を身近に体験したいという思いは、人工の富士塚でなければ果たせないものでしょうか。ここに、北斎と版元の工夫がありました。すなわち、一般には富士塚と思われていない様相の中に、富士塚、富士の神霊世界を見つけ出して、それを浮世絵を見る庶民に指し示そうとしたのです。したがって、富士を背景とする近景にこそ、趣向の面白さが注がれているのです。

 当作品の場合、峠を登る旅人、馬を引く馬子は、江戸時代の日常行為の一様相に過ぎませんが、実は、富士に登る富士信仰の修行と同一視されているのです。犬目峠という自然の富士塚に登り、日常の生活の中で富士を体験している庶民が描かれていますが、この浮世絵を見た者には、日々の生活に富士信仰上の意味付けがなされるという効果ががあります。

 富嶽シリーズにおける富士に相似する三角形(△)の使用は、浮世に富士世界を造形する信仰的考案から来ているのだと思われます。背後の富士は、芝居絵の書き割りと同様、この舞台が富士世界であることを見立てさせる道具に近い存在ではないでしょうか。本作品では、もちろん、峠が富士に相似する三角として応用されています。

*掲載の資料は、アダチ版画です。

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