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冨嶽三十六景「武州千住」

Hokusai07  「武州千住」は、「遠江山中」「登戸浦」に続く、鳥居見立ての構図作品と理解しています。意外に思われるかも知れませんが、画中の右側に描かれる綾瀬川の水門を二組の鳥居と見れば、その一方から富士を望む、北斎お得意の絵組みです。こうして、この千住の地域が富士神霊の降臨する場所であることを謳っているのです。

 馬を引く農夫と水門近くで釣りをする二人とは、富士を見上げ何やら会話をしているようです。その視線によって、ここと富士とが結ばれていることを、北斎は重ねて主張しているのだと思います。近景は水門前の庶民生活、中景は綾瀬川と隅田川に挟まれた田園風景、遠景に富士を配置し、豊かな農村生活が実は富士(神霊)の御利益であるかのような印象を与えてくれます。

 よく考えてみれば、「遠江山中」では山村の材木を木挽きする風景でしたし、「登戸浦」では漁村の潮干狩りを中心とする風景でした。富士神霊に触れるということは、具体的には、庶民にとっては収穫等の恵みに与(あずか)ることを意味していたのだと考えられます。

 なお、千住の地は、富士信仰の人々(富士講)の拠点の一つで、富嶽シリーズでは、その他にもう二点で、富士を背景に千住の景色が北斎によって描かれています(「隅田川関屋の里」「従千住花街眺望ノ不二」参照)。その意味からも、富士信仰と富嶽シリーズとは深い関係があり、信仰的観点から、北斎の描く構図や絵組みを理解する必要があると強く感じます。それ故、御柱(依代)、富士に相似する三角形(△)、鳥居見立て、さらには善光寺の回向柱に類する視線の結びつきなど、従来とは異なる視点から富嶽シリーズを見直しています。

 追記すれば、左端で釣りをする男の釣り糸は富士の左の峰に続いているように描かれています。とすれば、この釣り人と富士とは直裁に繋がります。また、手前で馬を引く農夫の綱は、富士に対して逆三角形の「逆さ富士」を造っています。(ここまでは、考えすぎでしょうか?)

*掲載の資料は、アダチ版画です。

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