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竹篦太郎(1)

 信州駒ヶ根にある天台宗のお寺・光前寺縁起は大変興味深いものです。光前寺のHPには、『霊犬早太郎の伝説』として紹介されています。遠州見付において、老狒狒が神に化けて、毎年、人身御供を強要し、村人を苦しめていたのですが、旅の僧侶が光前寺で飼われていた山犬を借り、老狒狒と戦わせ、ついには退治します。そして、その山犬の名が「早太郎」というのだそうです。これによって、人身御供の風習がなくなり、感謝した村人は、大般若経を写経して光前寺に奉納し、それが今日まで伝わる光前寺の寺宝になっているという縁起となります。

 一方、遠州見付で行われていた人身御供の風習は、見付天神(矢奈比売神社)の裸祭りとして形を変えて残っており、見付天神のHPによると、昔は泣き祭りと言ったそうです。話の流れは、光前寺縁起と同様、ある雲水の知恵で、光前寺から犬を借り受け、その犬が見付天神に潜む狒狒を噛み殺し、退治します。そこで、村人は感謝し、大般若経六百巻を書き写し、光前寺に奉納することになります。

 山犬と山猿との闘い、猿神伝説の一系譜と思われます。ところで、見付を含む磐田地方では、犬の名を「悉平太郎」と呼んでいます。違いがあるようですが、早い→風のように早い→疾風(しっぷう)→悉平、竹篦(しっぺい)と考えれば、同一と考えてよいでしょう。

 今日、地元の人々は地域の話と考えているようですが、広く、全国に分布する昔話で、南アルプスを挟んで光前寺の反対側の岐阜県、また青森、秋田、山形など東北地方にも広がっており、江戸時代には、歌舞伎『竹篦太郎怪談記』などとして上演もされています。

F171  ところで、左の写真は、縮緬(チリメン)本『日本昔噺シリーズ』(Japanese Fairy Tale Series)の第17号「竹箆太郎」(Schippeitaro)の表紙です。見るとおり、棺の中の犬の周りを怪猫達が踊っています(裸祭りの原形)。犬と猫の闘いという形になっており、光前寺縁起とは異なっています。縮緬本(第17号)の訳者ジェームス夫人も、全国各地に同様な話があり、その代表的な話の流れを紹介した旨のこと述べていますし、東北の竹篦太郎伝説では怪猫と闘う話のようですから、このような表紙もありえましょう。ただし、欧米人を対象にした縮緬本の性格からすれば、魔女や悪魔の変身した怪猫の方がより親しみがあることが推測されます。国柄でしょうね。

 先の縮緬本では、日本語の題名『竹箆太郎』、英語では“Schippeitaro”となっていますが、どのような経緯からこの題名が選ばれたのでしょうか?次回は、この題名から、物語の成立経過を推理してみます。

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